7.子供を守る対策
 子供が校内暴力の被害者であることを見つけたとき、親はどのような態度をとるのかという問いに「ダメ教師・悪ガキからわが子を守る法」著者の岡田春生氏はこう答えている。「どんなことがあっても、お母さんもお父さんもお前の見方だと子供にはっきり言ってあげることです。」この言葉は極めて重要だ。この言葉で子供は自殺を思いとどまり、事件を未然に防ぐことにつながるからである。

 ・親は子供の絶対的な味方
 子供は常に自分への支えを求めている。その支えとなるのはもちろん親の絶対的味方というものであることはいうまでもないだろう。とくにいじめの被害にあって不安と苦しみの中にある子供に対しては実際に子供の前で「なにがあってもお父さんとお母さんはお前の見方だ。」と宣言することである。「どんなことがあってもお母さんはあなたを助けてあげるから、困ったことがあれば言いなさい。」この言葉で子供は救われるのである。学校や友達の中で孤立し絶望している子供にとってこの一言がどれだけ力強い支えになるのか言うまでもないだろう。言葉に出して真剣に語りかける。これが自分の子供を救う第一歩なのである。
 ・子供の言い分を信じる
 大阪市のMさんが担任から「お宅のお子さんが友達の鉛筆を取るので注意してください」と言われた。母親は帰宅するとすぐに子供を呼び「人のものを盗むような子はお母さんの子ではない。」といって叱り、家の外に出した。子供は何か言いたげだったがMさんは無視した。ところが数日後、担任から連絡があり、「M君が隣の子に鉛筆を取られたため友達に鉛筆を借りただけでした。」言われた。Mさんは担任の言うことをうのみにして子供の言い分を聞こうとしなかったことを母親として深く反省した。Mさんは事実を子供に伝えわが子に素直にあやまったという。この母親の姿勢は子供にも分かったようで「これからお母さんには本当のことを言うからね。」と答えたのである。もちろん子供も自分の都合の悪いときはウソをつくことがある。しかし、親であればその言葉が真実かウソであるかは自ずと分かるであろう。
 ・子供のケンカに親が出る
 名古屋のUさんは小学2年生の長男がいじめの被害にあっていることを同級生からの知らせで知った。母親が「おまえ、学校でイヤなことがあるんじゃないの?」と聞くと、泣きながら告白したという。長男が校庭で遊んでいたとき、たまたまドッジボールが転がってきた。何気なくそれを足で蹴ったところ、そのボールは6年生のものでその持ち主に詰め寄られ彼はこづかれた。そのときあやまらなかった長男は下校時に6年生のグループにつかまり「これからずっと集リン(集団リンチ)するからな。」と宣告されたというのである。この話を聞いたUさんは怒りにふるえたという。彼女はすぐに長男の手を引っ張って子供達がたむろする場所を歩き回り、その6年生グループの1人を捜し出してこう言った。「こら、こんな小さい子をいじめてどうするの。今度、いじめたら私がぶったたくからね。わかった!」周囲にも響くほどの大声で6年生の子供に言い切ったのである。Uさんのあまりの剣幕にその子も事実を認めてあやまったという。そして長男に対するいじめはなくなったのである。昔、「子供のケンカに親が出るな」といわれたことがある。また一部の評論家が「子供同士のケンカが社会の力関係を学び、人間的な成長になっていく。」といった意見を述べている。しかしこうした考え方は現在の校内暴力やいじめを増長させることはあっても防ぐことにはならない。現代のケンカやいじめは大人や評論家が考えているようなおとなしいものではないのだ。
 ・被害が大きいときは学校を休む
 東京の中学校で起こった校内暴力事件がある。2学期の9月頃から5人の不良グループが暴れ出し、爆竹、ラジカセでの事業妨害、便所の落書き、教材破壊、教師への暴行と非行の限りを尽くす激しいものだった。この不良グループは勢力を伸ばし3学期には30人以上の集団となって校内を我が物顔で歩くようになった。授業を妨害され、いつ被害に合うか分からないため生徒達は次第に学校に来なくなった。とくに受験を控えた3年生は半分近くが欠席するし、番長グループは完全に学校を制したのである。この事件で注目すべきは、大半の真面目な生徒が学校へ行かなくなったことである。子供に学校を休ませることに対して一部には反論もあるだろう。しかし、こうした校内暴力の蔓延した学校へ被害を受けることを承知の上で、危険を冒して行くほど重要なものでないことは誰にも分かることだろう。子供を休ませることは、校内暴力に対応できない学校と教師に対する無言での批判でもあるのだ。
 ・父兄が授業を参観する
 校内暴力から子供達を守るために親たちが積極的に立ち上がったケースがある。東京のある公立中学校で不良グループの暴力が教師にまで及び、授業が出来ない状況にまで追い込まれたが学校側は警察に被害届を出さなかった。それに対して、ついに父兄が立ち上がったのである。「もう学校にはまかせておけない。」と判断した父兄は協議の上、交代で各クラスの授業を参観することにした。教室だけではなく校門にも立って授業中に外出する生徒をチェックした。父兄の授業参観は効果があり、不良グループは鳴りを潜めた。そしてPTA会長に「もう騒がない。」と約束したのである。父兄はその要求を受け入れ授業参観はわずか2日で中止した。しかし、案の定、1週間も経たないうちに校内暴力が再発し、そして加害者は逮捕された。不良グループがまともな約束を守れるようなら最初から校内暴力など起こらなかっただろう。もし、もう少し授業参観を継続していたら事件には至らなかったのかも知れないのだ。
 ・被害を受けたら診断書
 大阪市内のある中学校で”失神ゲーム”で意識を失った中学1年生K君が保健室に運び込まれるという事件があった。3年生の不良グループがK君達3人を床に寝かせてビニール袋を頭にかぶせ、手足を押さえたうえで、こめかみをこぶしで強く押しつけたのである。そのうちK君は手足をけいれんさせ、口からアワを出して失神してしまった。保健室で意識を取り戻したため、教師はK君を車で自宅まで送った。母親は驚いたが、教師は「単なる失神ゲームですよ」といって帰った。リンチであることを知った母親は校長へ抗議したが、「何ともなかったようだから穏便に。」というものだった。このとき母親はすぐにK君を病院へ連れて行き、脳波を調べてもらいその異常を診断書として残したのである。不良グループはその事件をあくまでも”遊び”だと主張し、校長は「騒ぎ立てないように」と説得に出た。しかし、母親は敢然と警察に被害届を提出した。K君の診断書が証拠になり訴えは認められた。そして、それをきっかけにして泣き寝入りをしていた父兄も被害を警察に訴えたのである。この場合、もし、診断書という証拠がなかったら訴えは退けられていたかも知れないのである。
 ・小学校から中学校へ抗議する
 東京のある公立中学校は都立高校の進学率が高い優秀校と評判の学校だった。しかし実態は校内暴力をかかえる問題校だったのである。校長や教師が「うちの中学は非行がないという評判があるから、名門の私立高校へも推薦入学できるのです。もし、校内暴力が話題になれば名門の私立高校もうちの生徒受け入れなくなるでしょう。」といって父兄の口を封じたのである。この中学校へ長男を通わせている証券会社の父親はこの論理を渋々是認してきた。しかし、ある日、長男が学校でケガをしたが犯人が分からなかった。見舞いにきた教頭と担任は「外部に漏らしたり、警察に届けたりしないように。」という。数日後、今度は女生徒とがトイレで裸にされるという事件が起きた。続いて体育の教師が不良グループに殴られた。この父親はこのままでは進学どころではない、この先、この学校には長女や次女も進むことになっているのだ。そこでこの父親は地域に訴えた。その中学校の父兄としてではなく、現在、小学校に通っている長女、次女の父兄として「今の中学校へは安心して子供を進学させることが出来ない。」という訴えと要望書を添えた署名をつのったのである。署名はたちまち200名ほど集まり、それを持って市の教育委員会へ訴えたのである。小学校の父兄からの要望という伏兵に教育委員会もあわてて校長を呼び対策を講じた。数日後、その中学校で父母会が開かれ教師と父母による協議会が設立されて巡回や相談室などの活動を行うことが討議されたのである。
 ・担任を替えてもらう
 東京都町田市のある小学校へ二人の子供を通わせている母親の話である。長男が2年の時の担任のえこひいきがあまりににもひどかったので、校長へ担任変更を強く要求したというのである。その結果、次の機会に考えるからという返事で待っていると、3年になる直前に校長から新しい3年担任の数人の名前を提示され、希望の先生を聞かれた。それ以来、すべてその母親の希望が通っているという。ここまですることはないと思う方もいるかも知れないが、口うるさい親には、理由さえ正当なら学校も親の言い分を居受け入れるのである。世田谷区のある母親などは子供が小学6年の時、中学校へ子供が忠一になるときに担任になる授業参観に参加し、教育相談で懇意になり次の年にちゃんと子供の担任になってもらったという。岩をも貫く母親の一念であるが、常に教師の動向や評判に気を付けていれば、かならずや良い担任を得ることが出来るのである。
 しかし、次の年まで待てない、今の担任教師の授業がひどく、1日も早い処置が必要な場合は、校長や教育委員会にはっきりと「今の担任は適格でない。」と申し入れることができるのである。このとき効果的なのは同じ思いの父兄5,6人で押しかけることだ。多数の父兄から批判の声があがるような教師は学校にとっても問題だからである。上記の例で明らかなように、担任は決して絶対的なものではなく、どうしても納得がいかない場合は有志と共に堂々と”学級担当解任要求”を校長や教育委員会に提出すれば良いのである。
 ・学校を替える
 現実に親が子供のために住所を変えて良い環境を求めた例がある。だが誰もが引っ越しが出来るわけではない。私立の小・中学校へ転校する方法もあるが、編入試験があり競争率も高く必ずしも編入できるわけではない。しかし引っ越しをしなくても学校を替える方法がある。それは転校したい学校の区域内にアパートを借り、母子だけ住民票を移すのである。実際には自宅から通ってもかまわない。しかし間違っても教育委員会に「子供を越境させたい。」などと言ってはならない。お役所では”越境”はタブーなのである。
 もっと良い方法がある。母親を新しい校区内に勤務させるのだ。一般に多くの教育委員会では、母親が別の校区内に勤務している場合には、その校区内の公立校に子供を通学させることを許可している。これは、もし学校内で事故が発生したときなど緊急に母親を学校に呼ぶことができるという教育上の正当な理由があるからなのである。父親の取引先や知人の会社に頼み、奥さんが事務員として働いていることにしたりするのである。中には大きな会社の重役夫人がホテルのパートだったり、弁護士婦人がそば屋の出前持ちだったりするケースもある。たとえ、実際に勤務していなくても、それを理由に堂々と区域外に子供を通わせることができるのである。